TOP>ホルン

〜楽器と汗〜  傾向と対策

ホルン奏者は右手は常に自分の熱い吐息に触れていないといけないという宿命がある。

 人によると思うが、私は演奏中、特に本番のステージではいつも手はつゆだくだ。気持ちの良い物でもないし、楽器自体にも悪影響を与えるし、たまに滑ったりする。ゲシュトップ何かやろうもんなら大変である。

 

Alexander 103MBL(Ser.No 13xxx) 7年6ヶ月使用(2003年7月現在)

左図:ベル ラッカーがはげているのが分かります

右図:楽器本体 比較的きれいですが一番ロータリーのレバーにはげが見えます

基礎編 〜汗の科学〜

 「汗とは?」 

汗腺は全身で約400−500万個くらいと言われてます。全身の中で最も汗腺の集中している箇所はどこか分かりますか?一番目は手のひらです。そして2番目3番目は足の裏と続きます。汗の成分は「しょっぱい」から想像はつくと思いますが、水がほとんどを占め、塩化ナトリウム(NaCl)が約0.65%、尿素が約0.08%、乳酸が約0.03%です。その他にカルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛などミネラル分に富んでいます。また激しい運動をすればその塩化ナトリウム濃度は0.9%近くまで上昇すると言われてます。

 「汗が出る時?」

主に「体温を調節する時」、「精神的な興奮」の2通りである。付け加えると手のひら、足の裏はほとんどの場合「精神的興奮」によって汗の分泌が起き、その発汗については周辺環境の温度条件によっても左右されるものである。演奏会中はもちろん精神的興奮があります、それに加えてスポットライトや演奏者の熱気など体温調整のための発汗もあります。従って全身か少なからず発汗があり最も楽器(特にノーラッカー)にダメージを与える時間ではないでしょうか?。(海岸での練習や夏場の空調設備の整っていない練習場での練習箱の限りではありませんが・・・)。

「結局は汗をかいてしまう!!」

精神的発汗は更に2種類に分かれる。「精神性発汗」と「惰動性発汗」である。2つは大脳、特に前運動野、大脳辺縁系の影響強いと言われている。前者の精神性発汗−物事に集中したり(「手に汗握る瞬間」)、知的思考をしたときなど前頭葉が深く関与した時に起こり手のひらなどの発汗は強くなるが、同時にその他の場所の汗はひいていくという傾向にある。これはどれだけ暑い空間にいても集中している時は全身の汗がひいていくということからも納得できると思います。後者の惰動性発汗−強い不安や緊張などの惰動性興奮時に手のひら、足の裏だけでなく全身の発汗が促進される。主にホルン吹きの場合は後者の精神状態である事が多いと思います。以上のように個人差はあるが、演奏会で集中したり緊張したりすれば手のひらに汗をかくものであると言う事を理解しておく必要がある。

「手のひらに汗をかかない場合」

精神的なコントロールがうまい、演奏会などの場数がやたら多くよほど場慣れしている、精神的に図太い等が考えられる。またそれほど重要なポジションでない、重要なフレーズが無く気楽、惰性で音楽をやっている等の場合精神的高揚が起きていない場合も精神的要因で手のひらに汗をかく事はほとんどないだろう(体温調整による発汗はあると思います)。あと体質や汗腺が詰まっている人もこれに当てはまる。しかしながら汗をかく=良い事という意味とは違いますのでご理解下さい。またスポーツ医学でも実証されているように、良くトレーニングしたスポーツ選手はより少ない汗で最大限の冷却効果を得る事ができるため、素人が10kmランニングする時に比べ一般的に汗の量は少ない。それと同じようにメンタルコントロールの上手な方は精神的興奮による発汗も少ないのではないかと推測します。しかし体温調整による発汗と精神的興奮による発汗ではそのメカニズムも違いますし、後者の発汗は精神的なものが絡んでおり正確なメカニズムはまだ解明されておりませんので、これ以上の言及は差し控えたいと思います。

「金管楽器のラッカーの意義」

ラッカーの目的は見た目と楽器の酸化などによる経年劣化を極力防ぐこと。ラッカー仕上げされた楽器は常に輝かしい姿をしています。スポットライトに当たったり夕日に当たると乱反射などでまばゆいばかりの光を放ってくれます。またラッカー仕上げした楽器は楽器の地金を樹脂コーティングしてありますので、直接腐食成分に触れる事はほとんどないです。従って金属の酸化による変色を抑えるとともに楽器の地金がすり減るのも抑えてくれます。しかしラッカーもペンキと同じで一つの層であり、金属と電気的には結合していても共有結合、イオン結合などにより一体化している訳ではないのではがれる事もあります。特にページ上部に掲載したように手の摩擦等でラッカーがはがれ落ちます。加えてアレキサンダーのラッカー仕上げは手吹き→自然簡素という工程で行われるため他メーカーの静電塗装のものに比べてよりはがれやすいのです。

☆余談ですが、ラッカーにはいろんな色や硬さのものがあります。色で言えばかの有名な楽器メーカー「マーチン」。マーチン製のトランペットにはブラックラッカー、ミッドナイトブルーラッカー、レッドラッカーを施された色鮮やかなトランペットがラインアップされております。そのほかにも「ジュピター」からもカラフルなトランペットが発売されています。

「結局は・・・

汗をたくさんかく人でめんどくさがり屋の方はラッカー仕上げの楽器を持つ事がベストです。なぜならノーラッカーの楽器は地金を常に奏者が触っており、少なからず塩化ナトリウムが付着し、放置すれば楽器を腐食させていきます。演奏後のケアは欠かせない。乾いた布で良く塩分を拭き取りましょう。またノーラッカーの楽器にハンドプロテクターを装着されている方も演奏後は脱着し、良く拭いてやる事が大事です。そのまま放置すると気づいたら穴が・・・ってことも。しかしノーラッカーの楽器の方が金属がダイレクトに振動し柔らかい響きが得られたりで本来の姿です。最終的に何を選ぶかはプレイヤーの好みです。

参考:斎藤 博(発汗ーその病理整理と検査法)

アレキサンダー日本語版ホームページより